仕事。テストジャンキー、女たちの声、盗まれた遺書。盗まれた遺書は1篇1篇はちょっと弱い(作品のパンチとして)ような気もしたが、ぜんぶ読み終わると全体がよくわからん粘液が糸引くようなびみょ~なつながりみたいなものもあって、変な読後感で面白かった。短編の掲載順が雑誌発表順とほぼ逆なのは謎だった(文体や読みやすさの難易度からくる順番なのかなとも思った。いや短編集ってなぜかだいたい発表順とは逆なのばかりなので出版社の慣習的なものにしばられた結果なのかもしれんが)。個人的には発表順のままの流れの方がよかったような、特に表題作は最後にもってきた方がまとまりがよかったような気もしたんだが、まあそこは別にページ順にこだわらなくても本の最後から読んでいけばいいし、一回読み終わってから表題作だけ読み直すというのでもよいではないか。表題作のような語り手や登場人物が幾度も交代・後退していくような仕掛けは三宅さんに勧められたように好みではあったが、それ以外のカフカの変身やクローネンバーグのクリーチャーみたいなのが出てくる話もわりと、いやけっこう好きなのでした。こまかい読み込みが必要な小説ではあるので、気になる点(なんといっても登場人物の人間関係は書き出して図にして俯瞰してみたくなる)にしぼって読み返したくはなるが、将来に持ち越し。

ネットでエルド吉永の原画展を青山BC本店でやっているという記事を発見したので、仕事上がりにいってきた。その前にイメージフォーラムに寄って上映時間で近いものを確認したら、イオセリアーニの『水彩画』『珍しい花の歌』『四月』の短編映画セットをやっていたので鑑賞。その後ABCへ。原画と下絵が平行して飾られてて、どちらも何というか漫画から受けた熱量の高さがより強く感じられるような絵の数々でたのしかった。

ひさしぶりのABCだったのでいろんな棚を見て回っていたら、松江泰治の大型な写真集が出ていたのを見つけて興奮した。松江泰治は作品発表を追ってる写真家なのだが、といっても本屋にいったときに写真集コーナーでその名前を探すとかたまにネットで検索するといった程度のファンなので、だいたいいつも新作に出会うのは遅れがちである。一冊しか置いてなかったのでさっそく買って帰って、いつの出版か調べたら去年だったようだ。

前は「gazetteer」にはガゼッタという読みがあてられてたが、今はギャゼティアなのだな。

と、出版社のサイトを見てて、さらにずっと昔に出ていた3万円もする写真集がまだ売っているのを知って衝撃を受けた。

たぶん私が持っていない松江泰治の唯一の写真集で、今から何十年もむかし六本木の何というギャラリーだったか忘れたが、そこであった松江泰治の個展で、出版されたばかりのこの写真集のサンプル本を1時間くらい居座って1ページ1ページじっくり立ち読みするという貧乏な若者の微笑ましいエピソードがあったとかなかったとかなのだが、今ならすこし悩みつつも買えない金額ではあるな…。たしか当時はこれに実際のプリントされた写真も付いて8万円くらいしたエディションもあった記憶がある。(追記、いやプリント付きで8万円は安いような気がしてきた。もっと12万とかそれ以上だったような気もしてきたが、どうだったろうか(追記の追記、写真集の紹介文にTARO NASU GALLERYとあって、そうだそうだこのギャラリーだったわと調べたら、そちらのHPに特装版の情報があった。《*特装本 30部 黒布化粧箱入り、オリジナルリトグラフ"MALAYSIA 2002"付き¥88,000.-(消費税別)詳細は弊画廊までお問い合わせください。》やっぱり8万円台だったもよう。なかなかの記憶力だったな。付属されるのはプリントされた写真じゃなくてリトグラフだったが。品切れとは書かれてなかったので、こちらもまだ在庫がある可能性がゼロではなさそう))

3万円、悩みつつ、新しい写真集をめくる。